最低賃金が引き上げられるたびに、時給のパートだけでなく、月給の社員も下回っていないかを確かめる必要があります。
最低賃金は時間額で決まっているため、月給なら「月給 ÷ 1か月平均所定労働時間」で時間額に直して比べます。このとき、通勤手当・家族手当・残業代などは除きます。この記事では、給与の形態別の計算式、1か月平均所定労働時間の出し方、算入しない賃金、計算例、引上げで人件費がいくら増えるかを順に説明します。
地域別最低賃金は、都道府県ごとに1時間あたりの金額で決められています。正社員・パート・アルバイト・契約社員など、雇用形態や呼び方に関係なく、その都道府県の事業場で働くすべての労働者に適用されます。派遣労働者の場合は、派遣先の事業場がある都道府県の最低賃金が適用されます。
最低賃金は毎年改定され、新しい金額は都道府県ごとに決められた発効日から適用されます。令和8年度は、東京都が2026年10月1日に1,280円、熊本県が2026年12月1日に1,092円など、発効日が都道府県によって違います。
厚生労働省が示している確認方法は、次のとおりです。
| 給与の形態 | 最低賃金以上かどうかの確認方法 |
|---|---|
| 時間給 | 時間給 ≧ 最低賃金額(時間額) |
| 日給 | 日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額) |
| 月給 | 月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額) |
| 出来高払制・請負制 | 賃金の総額 ÷ その期間の総労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額) |
| 上の組み合わせ | それぞれを時間額に直して合計し、最低賃金額(時間額)と比べる |
出典:厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」
月給制では、月によって所定労働日数が違うため、1年間をならした「1か月平均所定労働時間」で割ります。
1か月平均所定労働時間 =(365日 − 年間休日日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12
年間休日が120日、1日の所定労働時間が8時間なら、(365 − 120)× 8 ÷ 12 ≒ 163.3時間です。年間休日が少ないほど、1か月平均所定労働時間は長くなり、同じ月給でも時間額は低くなります。就業規則で年間の所定労働日数が決まっている場合は、その日数を使ってください。
月給・年間休日・算入しない手当を入れて判定まで済ませたい場合は、最低賃金 計算ツールを使えます。都道府県を選ぶと、基準日に適用される最低賃金で自動的に比べます。
最低賃金と比べる金額には、次の賃金を含めません(最低賃金法と同法施行規則で定められています)。
| 算入しない賃金 | 例 |
|---|---|
| 臨時に支払われる賃金 | 結婚手当など |
| 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 | 賞与など |
| 所定労働時間を超える労働に対する賃金 | 時間外手当(残業代)、固定残業代 |
| 所定労働日以外の労働に対する賃金 | 休日手当 |
| 深夜労働の割増分 | 午後10時〜午前5時の割増部分 |
| 精皆勤手当、通勤手当、家族手当 | — |
基本給のほか、毎月決まって支払われる職務手当や役職手当などは、算入する賃金に含めて計算します。「総支給額」のまま比べると、最低賃金を満たしているように見えても実は下回っている、ということが起こります。
東京都の会社で、月給20万円(算入しない手当なし)、年間休日120日、1日8時間の社員の場合です。
1か月平均所定労働時間 = 163.3時間
時間額 = 200,000円 ÷ 163.3時間 ≒ 1,224.5円
2026年10月1日からの東京都の最低賃金1,280円を下回ります(改定前の1,226円も、わずかに下回っていました)。最低賃金を満たすのに必要な月給は、1,280円 × 163.3時間 ≒ 209,067円です。
総支給額23万円のうち、通勤手当1万円、家族手当1万5,000円、固定残業代2万円が含まれている社員で、1か月平均所定労働時間が160時間の場合です。
算入する賃金 = 230,000 − 10,000 − 15,000 − 20,000 = 185,000円
時間額 = 185,000円 ÷ 160時間 ≒ 1,156.3円
大阪府(1,231円)の会社なら下回り、鹿児島県(1,090円)の会社なら上回ります。総支給額23万円で計算すると時間額は1,437.5円になり、どちらの府県でも問題がないように見えてしまいます。
日給9,600円、1日の所定労働時間が7.5時間なら、9,600 ÷ 7.5 = 1,280円です。東京都の最低賃金1,280円と同額なので、満たしています(最低賃金額以上であればよいためです)。
新しい最低賃金は、発効日以降の労働から適用されます。給与の締め日の途中で発効日が来る場合も、発効日以降に働いた分は新しい額以上でなければなりません。発効日は都道府県ごとに違うので、複数の都道府県に事業場がある会社は、事業場ごとに確かめてください。都道府県ごとの金額と発効日は、最低賃金の全国一覧で確認できます。
最低賃金に満たない賃金を定めた契約は、その部分が無効になり、最低賃金と同じ額を定めたものとみなされます。会社は差額を支払う必要があり、地域別最低賃金を下回る賃金しか支払わなかった場合は、50万円以下の罰金の対象になります。
最低賃金の引上げに合わせて時給を上げる場合、年間の増加額は次の式で見積もれます。
年間の増加額 =(新しい時給 − 今の時給)× 1人の月の労働時間 × 対象人数 × 12か月
時給1,250円のパート5人(1人月80時間)を、東京都の新しい最低賃金1,280円に引き上げるなら、30円 × 80時間 × 5人 × 12か月 = 年14万4,000円です。社会保険料などの会社負担がある場合は、その分も上乗せされます。人件費を案件や商品の原価に入れて考える方法は人件費の原価計算とは、増えた人件費を価格に反映するときの考え方は価格交渉をロジカルに検討するで解説しています。
最低賃金は時間額で決まっているので、給与を時間額に直して比べます。時給はそのまま、日給は1日の所定労働時間で割り、月給は1か月平均所定労働時間で割ります。通勤手当・家族手当・残業代などは除いて計算します。
違法です。最低賃金は正社員・パート・アルバイトなどの雇用形態に関係なく適用されます。月給を時間額に直して最低賃金を下回る場合、会社は差額を支払う必要があり、地域別最低賃金を下回ると50万円以下の罰金の対象になります。
含めません。固定残業代は所定労働時間を超える労働に対する賃金なので、最低賃金と比べる金額からは除きます。基本給と算入できる手当だけで最低賃金を満たしている必要があります。
最低賃金は時間額で比べます。月給は1か月平均所定労働時間で、日給は1日の所定労働時間で割り、通勤手当・家族手当・残業代などは除いて計算してください。総支給額のまま比べると、下回っていることを見落とします。発効日は都道府県ごとに違うので、引上げの時期には事業場ごとに確かめましょう。
最低賃金の金額と発効日は、厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」で公表されています。