「鋼材がどれくらい値上がりしたのか」「仕入れ値の上昇は世の中の動きと比べて大きいのか」を確かめるとき、よく使われるのが企業物価指数です。
企業物価指数は、企業どうしで取引されるモノの価格の動きを表す指数で、日本銀行が毎月公表しています。2020年の平均を100とした値で表し、鉄鋼・非鉄金属・化学製品・木材・紙・石油製品など、品目ごとの動きも調べられます。この記事では、指数の読み方と上昇率の出し方、指数の種類、消費者物価指数との違い、品目別の調べ方、見積もり・予算・価格交渉での使い方を説明します。
企業物価指数は、メーカーや卸売業者などの企業が、ほかの企業に売るときの価格を調べて作る指数です。かつては「卸売物価指数」と呼ばれていました。消費者が店で買う値段ではなく、原材料や部品、製品が企業の間で取引される段階の価格を表します。
今の指数は2020年を基準にしていて、2020年の平均の価格を100とします。指数が130なら2020年より30%高く、90なら10%安いという意味です。円の価格そのものではないので、「1トンいくら」は指数からは分かりません。分かるのは、ある時点と比べて何%上がったか、下がったかです。
2つの時点の指数から、その間に何%動いたかを次の式で出します。
上昇率(%)=(後の時点の指数 ÷ 前の時点の指数 − 1)× 100
指数の差(後 − 前)は「ポイント」で、上昇率とは違います。指数が100から110になるのも、150から160になるのも同じ10ポイントですが、上昇率は10%と約6.7%で異なります。値上がりの大きさを比べるときは、上昇率を使います。
実際の値で計算すると、次のようになります(日本銀行の公表値)。
| 指数 | 2025年8月 | 2026年8月 | 1年間の上昇率 |
|---|---|---|---|
| 国内企業物価指数(総平均) | 126.5 | 136.1 | +7.6% |
| ステンレス冷延鋼板 | 147.4 | 157.7 | +7.0% |
| 小形棒鋼(鉄筋など) | 152.0 | 157.0 | +3.3% |
総平均は全体の動きなので、自社に関係する材料の動きを見るときは、品目別の指数を使います。上の例でも、同じ1年間で品目によって上昇率が大きく違います。
指数は円の価格ではありませんが、自社で過去に買った単価が分かっていれば、指数の動きを当てはめて今の目安を出せます。
今の価格の目安=過去の単価 ×(今の指数 ÷ 過去の時点の指数)
たとえば2025年8月にステンレスの材料を1単位100,000円で買っていた場合、2026年8月の目安は 100,000円 ×(157.7 ÷ 147.4)= 約106,988円です。ただし、これは市場全体の平均的な動きを当てはめた目安で、実際の仕入れ値は取引先や数量、規格によって変わります。
上昇率と今の価格の目安は、企業物価指数の推移(品目別)の各品目のページで、年月と単価を選ぶだけで計算できます。
企業物価指数には、取引の場面ごとに3つの基本の指数があります。
| 指数 | 対象 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 国内企業物価指数 | 国内で生産し、国内の企業に売る商品の価格 | 国内で仕入れる材料・製品の値動き |
| 輸入物価指数 | 海外から輸入する商品の価格 | 輸入原料(ニッケル・アルミ地金・小麦など)の値動き |
| 輸出物価指数 | 海外に輸出する商品の価格 | 輸出製品の値動き |
輸出物価指数と輸入物価指数には、「円ベース」と「契約通貨ベース」があります。円ベースは円に換算した価格で、為替の影響を含みます。契約通貨ベースはドルなど取引した通貨のままの価格で、為替の影響を含みません。両方を比べると、値上がりが海外の相場によるものか、円安によるものかの見当がつきます。
国内企業物価指数は消費税を含んだ価格で作られています。消費税率の変更の影響を除いた「消費税を除く国内企業物価指数」も公表されています。
| 企業物価指数 | 消費者物価指数 | |
|---|---|---|
| 作成 | 日本銀行 | 総務省 |
| 対象 | 企業どうしで取引されるモノ | 消費者が買うモノとサービス |
| サービス | 含まない(企業向けサービス価格指数として別に公表) | 含む(家賃・通信・外食など) |
| 基準 | 2020年=100 | 2020年=100 |
原材料の値上がりは、まず企業の間の取引価格に表れ、製品価格への転嫁を経て、遅れて消費者の買う値段に表れることが多くあります。そのため、企業物価指数の上昇率が消費者物価指数より大きい時期は、企業がコストの上昇を販売価格に反映しきれていない状態とみることもできます。
企業物価指数は、大きな分類から順に「類別 → 小類別 → 商品群 → 品目」と細かく分かれています。たとえば鉄鋼なら、類別「鉄鋼」の下に、形鋼・小形棒鋼・厚中板・冷延広幅帯鋼・ステンレス冷延鋼板などの品目があります。自社の材料に一番近い品目を選ぶのがポイントです。
元のデータは、日本銀行の「時系列統計データ検索サイト」で、分類をたどって品目を選ぶとダウンロードできます。品目によって調べ始めた年が違い、2020年から始まる系列もあるので、長い期間を比べたいときは、調査の開始年も確かめてください。
よく使われる品目は、毎月自動で更新されるグラフにまとめています。鋼材・ステンレス・ニッケル・アルミ・樹脂・木材・段ボール・セメントなどは、それぞれのページで系列を切り替えて見られます。
見積もり・実行予算の見直し:見積もりを出してから発注までに時間がかかる仕事では、その間に材料が値上がりすることがあります。主要な材料の品目の上昇率を見て、見積もりの有効期限や、単価の見直しの条件を決めておくと、原価のずれを防げます。工事ごとの材料費の管理は工事原価管理も参考にしてください。
仕入れの時期と量の判断:品目の指数が上がり続けているか、落ち着いてきたかを見ると、まとめて仕入れるか、必要な分だけ買うかの判断材料になります。在庫を増やすと資金が寝るので、在庫と資金繰りのバランスもあわせて考えます。
価格交渉の根拠:販売先に値上げをお願いするとき、「材料が上がった」だけでなく、公的な統計で何%上がったかを示すと、説明に客観性が出ます。どの品目を、どの期間で比べたかを書き添えるのがポイントです。値上げの判断の考え方は価格交渉をロジカルに検討する、通知の書き方は値上げ文章の書き方で解説しています。
・自社の仕入れ値とは一致しない:指数は多くの企業の取引価格をならした平均的な動きです。品質の違いを調整して作られているため、個別の取引の値段とはずれます。
・直近の値は改定されることがある:公表された直近の値は、翌月以降に改定されることがあります。資料に使うときは、いつ公表された値かを書いておきます。
・比べる期間で結果が変わる:起点の月を変えると上昇率は大きく変わります。相手に示すときは、比べた期間を必ず明記します。
日本銀行が毎月、対象月の翌月の中旬ごろに公表します。たとえば2026年8月分は2026年9月11日に公表されました。公表後に、前の月の値が改定されることがあります。
2020年の平均の価格を100としたときの値という意味です。指数が130なら2020年より30%高く、90なら10%安いことを表します。円の価格そのものではありません。
企業物価指数は企業どうしで取引されるモノの価格を日本銀行が調べたもので、消費者物価指数は消費者が買うモノとサービスの価格を総務省が調べたものです。原材料の値上がりは、先に企業物価指数に表れ、遅れて消費者物価指数に表れることが多くあります。
企業物価指数は、企業どうしで取引されるモノの価格の動きを、2020年=100で表した日本銀行の統計です。2つの時点の指数を割り算すれば上昇率が出て、過去の単価に当てはめれば今の価格の目安も出せます。総平均ではなく自社の材料に近い品目を選び、比べた期間を明記して使うのがポイントです。
この記事の指数の値と説明は、日本銀行「企業物価指数(2020年基準)」と、同行の「企業物価指数(2020年基準)のFAQ」に基づいています(2026年10月12日に確認)。